コロナ禍で急増したうつ病
アメリカでは新型コロナワクチンの臨床試験が大詰めを迎えつつあります。
新型コロナの感染拡大はいまだ収束の気配はなく、ましてやヨーロッパでは今もなお過去最多の新規感染者数を記録しています。
さてコロナ関連のニュースというと、感染者数など感染拡大の状況ばかりが取り上げられがちですが、水面下ではもう一つのパンデミックが起こっています。
これはアメリカでの研究結果ですが、パンデミック後、抑うつ症状を訴える人の数が全体の8.5%→27.8%と3倍以上に急増したそうです。
性別では男性 21.9%、女性 33.3%と女性の3人に1人はうつ症状を呈しており、またサブグループ別にみると、有症状者の割合のオッズは独身世帯 2.1倍、世帯収入2万ドル未満 2.4倍と孤立や貧困が引き金になっている様子がうかがえます。
また日本でも自殺者が急増しているというニュースがありました。
この統計でもアメリカでの研究と同様に、特に女性が大きく影響を受けているという数字が報告されています。
この自殺者急増の背景にも、やはりうつ病の増加があると考えるのが自然でしょう。
感染拡大の陰で、コロナうつが今ひそかに世界中で広がっているのです。
stay homeはうつ病量産キャンペーン?
新型コロナ感染拡大に伴い、各国は大規模な都市封鎖を行い、また飲食店の営業を停止させるなどして積極的な外出規制を働きかけました。
このような大々的な行動制限というのはこれまでになかったことであり、人々のライフスタイルは大きく変化しました。
さて外出が制限された時、自宅ですることと言えば、テレビやインターネットを見たり、ゲームをしたりという人は多いでしょう。
話は変わりますが、
"use it, or lose it."
という英語圏の慣用句をご存じでしょうか。
直訳すると「使わなければ失ってしまう」となり、この言葉は通常習得したスキルなどを長い間使わないでいると、それを忘れてしまうということを意味しますが、これは人間の身体機能にも当てはまり、基本的によく使う機能は発達し、その逆に使われない機能は衰えていきます。
筋肉がわかりやすい例ですが、日常的にトレーニングをすることで筋肥大が起き、筋力をつけることができる一方で、高齢者が一度動けなくなったりすると、急速に筋力が衰えて一気に寝たきりになるという事例は非常にありふれたものです。
さて、ひと昔前までは人間の脳は子供の時期に発達し、大人になってからは一生その構造が変化しないというのが通説でしたが、近年になって成人後の脳にも可塑性(神経新生)があり、"use it, or lose it." の例外ではないと言われるようになってきました。
つまり脳の構造もライフスタイルによって大きく変化しうるということです。
前置きが長くなりましたが、前述のような家にこもってネットやゲームばかりする生活を続けていると、脳にどのような変化が起こるか。
これについて一部界隈で有名なゆうメンタルクリニックがわかりやすい漫画で解説してくれています。
以前のマンガで「同じ時間勉強をしていても、デジタルツールを使う時間が増えるほど、成績が悪くなる」という話をしました。この理由がこちらになります。ゲームなどを長時間行うことで、正確には、脳の「前頭前野」という部分への血流が下がり、それを繰り返していることで、前頭前野の発達が明らかに悪くなるそうです。
前頭前野の血流が悪くなる原因についてですが、テレビやスマホ、ゲーム中には後頭葉の視覚野、側頭葉の聴覚野などが活発に働いているそうです。
情報量の多い視覚情報、聴覚情報の処理を優先させるために、相対的に前頭葉(前頭前野)の活動性を落としているということなのかもしれません。
さて前頭前野と言えば、意欲や思考力・判断力、創造性、自制心などを司る理性の脳、人を人たらしめている脳の最高中枢です。
また前頭前野はストレス反応の中枢である原始的な脳、大脳辺縁系の抑制系でもあり、ストレス反応の制御などにもかかわっています。
この前頭前野が機能不全に陥るとどうなるか。
先のような人間らしさが失われ、無気力で、ストレスに弱く、頭にモヤがかかったような状態……
これはうつの症状に非常によく似ていないでしょうか。
実際に、うつ病患者では前頭葉機能が低下していることがわかっています。
では反対に、前頭前野が活性化するのはどんな時なのか。
脳トレゲームの監修もしている東北大学の川島教授によると、それはリアルな対人コミュニケーションをとっている時だそうです。
東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太氏の研究によると、「対人コミュニケーション場面での脳活動計測を行ったところ、実際に誰かの顔をみて話をすると前頭前野は大いに働く。(中略)テレビ会議システムを使って話をさせても、前頭前野は働いてくれません」ということがわかっている。
しかもやっかいなことに、Zoomなどのビデオ通話でのコミュニケーションでは前頭前野は働かず、リアルなコミュニケーションでのみ反応するということのようです。
相手の姿が見え、話す声が聞こえるという意味ではリアルでのやり取りと大差ないようにも思えますが、脳の活動性には大きな違いがあるようです。
これらのことから導かれる仮説は、人との接触を避け、家にこもってスマホやゲームに興じるというwithコロナの生活様式が前頭葉の機能低下を起こしやすく、うつのリスク因子になっているのではないか?ということです。
皮肉にも、感染拡大の一時的抑制のためのstay homeはうつ病を蔓延させるのに最適な環境を作り出したと言えるかもしれません。
人は人と関わることで人間らしくいられる
リアルで人と会って話している人ほど前頭前野が活発に働いている時間が長く、その結果前頭葉がよく発達した、いわゆる人間力の高い人である可能性が高い。
つまりアクティブなリア充は人と関わるがゆえに、さらに物事への意欲・やる気が増し、頭のキレも良く、ストレスにも強いという、盛者ますます富んでいくという感じのポジティブフィードバックがかかっていると考えられます。
一方で、家にこもってPCのモニターやスマホばかり眺めている私のような陰キャラは、前頭葉がどんどん萎縮し、無気力で打たれ弱く、常に頭にモヤがかかったような生ける屍、廃人となって無事死亡する。
これは忌々しき事態です。
また以前にこんな記事を書いたことがありますが、こうした人に関する研究の数々を眺めていると、人間というのはやはり人との関わりの中で生きるように出来ているのではないかと思わされます。
ところで私はリタイア生活を目指しているわけですが、よくリタイアすると社会とのかかわりががなくなるので孤独耐性が必要みたいなことが言われたりすることがあります。
ただ、それはその人のライフスタイル次第とも言えるでしょう。海外をぶらぶらと放浪する外こもりみたいなスタイルもありますしね(今は渡航制限がかかっていますが)。
そもそも現代社会のいわゆる現役社会人は基本的に多忙であり、常に仕事やタスクに日々追われているのが普通です。
これは基本的に脳の健康にとってあまりよろしくないのではないかと私は考えています。
この記事で脳のワーキングメモリについて触れましたが、処理すべきタスクや情報量が多くなってくると、ワーキングメモリがパンクして前頭葉のシャットダウンが起きる。
すると前述のような人間らしさが失われやすいのではないか?と考えています。
また高度に情報化され、意識せずともありとあらゆる情報が自然と目に飛び込んでくるという現代の生活環境がそれに追い打ちをかけているとも言えます。
現代人に必要なのは情報収集ではなく、情報のシャットアウト、断捨離なのです。
そうして不要な情報やタスクを捨て、のんびり、だらだらと過ごす。
そういう過ごし方こそ本来の人間らしいライフスタイルではないかと私は思っています。
以上をまとめると、忙しすぎる社畜生活はNGだが、引きこもりライフもよろしくない。
ゆえに私の目指すべきライフスタイルは、海外外こもりのような少しアクティブなニートライフということになりそうです。